俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

香坂みゆき「気分をかえて」

路傍にしゃがみこんで、道行く幸せそうな人たちを恨めしげに上目づかいににらみつけている感じ。山崎ハコ作詞・作曲のこの曲から立ちのぼるすさまじいまでのいじけぶりを言いあらわせば、そうなるでしょうか。

ゆううつな毎日をどうしよう

歌を聞いても 酒をのんでもなおらない

いつもの彼のぬくみもほしくない

ざアーざアー雨ふる舗道に一人で泣きたいよ

こんだけいじけると、もうこれは文学的考察の対象です。沢口みきが取り上げた同じ山崎ハコ作「ヨコハマ」でもそうですが、主人公の心象風景の中で降りしきる激しい雨は、何を象徴しているんでしょう。

これをハードロック調のアレンジで、美少女香坂みゆきが歌う、というところがミソ。1981年の発売です。このアレンジ、明らかにブロンディ「コール・ミー」のヒットを意識したものでしょう。発売当時、近田春夫さんの『パック・イン・ミュージック』に香坂さんがゲスト出演したとき、近田さんがこの曲に合わせて「コール・ミー」をくちづさんだことがあったのです。香坂さん、その点を強調されるのは不本意だったと見えて「…あんまりです」と言ってました。この歌詞、この曲を歌い上げることはアイドル香坂さんにとっては大きな挑戦だったはずで、『八時だヨ!全員集合』に出演して生バンドをバックに歌ったときなんか、ほんと、力一杯の熱唱でした。

いまでも、ベスト盤を取り出して、この曲だけ何度も聴くことがあります。雨降る路傍にうずくまって恨めしげにすすり泣いている、そんな不安定であやうい魂のありようがビシビシ伝わってくる名曲です。