俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

山崎ハコ「ざんげの値打ちもない」

買って来ました、『歌鬼(Ga-Ki) 阿久悠TRIBUTE』。全部聴く価値のある素晴らしいトラックばかりですが、今日はこれについて書かなければなりません。

作詞:阿久悠 作曲:村井邦彦 編曲:山崎一稔 山崎ハコ「ざんげの値打ちもない」

本家、北原ミレイにまさるヴァージョンがあるわけない、と思いつつも、この3流エロ劇画タッチの詞と山崎ハコの暗い情念がどのように共振するか、期待はそこにありました。期待は十分満たされました。そして驚きは、オリジナル・ヴァージョンにはない「4番」の歌詞。一番が14歳で窓にちらちら雪が降る部屋での処女喪失、二番が指輪を贈られて花を飾られてのみすぼらしい嫁入り(内縁婚?)、三番が19歳、ナイフを手に握って自分を捨てた男を待ち、なんとこの山崎ハコヴァージョンの4番では、主人公は「とうに二十を過ぎ」た歳で、「鉄の格子の空」を見上げているのです。これ、どういう経緯で付け加わったのでしょう。もともとオリジナルを書いた当時にあったもので、内容が忌避されてあえてカットされた、ということなんでしょうか。我々が「4番」と思っている詞は5番になっていて、主人公は「ざんげの値打ちもないけれど/私は話してみたかった」とストーリーを締めくくります。いやあ、こいつは驚いた。知りませんでした。阿久さんの本とか読むと、どこかにこの曲のことが書いてあったりするのでしょうか。ともあれ、結果的に、このトリビュート盤を、ただの「いいカヴァーアルバム」で終わらない価値のあるものにしています。今年一番かも、というぐらいの圧倒的な聴き応え。

トリビュート盤の最後は杏里「ひまわり娘」。この、愛と狂気と孤独と情念の詰まったアルバムを明るく締めくくります。他にSFジャズなMizrock「ペッパー警部」、ディキシーランド風な中西圭三「たそがれマイ・ラブ」、あーあーあの声で歌い上げる森山直太郎「思秋期」など、しばらく聴きこみそうな曲がザクザクです。