俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

情報誌の中のロシア(音楽ブログ休止中です)

kamchatkaさんが面白い本を書きました。

岩本和久『情報誌の中のロシア 文化と娯楽の空間[ユーラシア・ブックレットNo.121] 』(東洋書店、2008年)

モスクワやサンクト・ペテルブルクの映画館や書店、ライヴ・ハウスなどの文化スポットについての紹介本です。といってもありきたりなものでなく、情報誌から見えてくる都市の文化空間、という切り口が斬新。『ヴァーシ・ダスーク(あなたの娯楽)』、『アフィーシャ(広告)』といった情報誌を片手に、モスクワやペテルブルクの街をすいすいと歩き回っている気分が、読者にもちゃんと味わえるように書かれています。

もとは「通常の観光案内書とは違う、ロシア旅行のガイドブック」として持ち上がった企画だそうですが、そういう実用的な側面もばっちり。「映画館」「クラブ」「展覧会」といった各章の末尾には、取り上げられているスポットの住所と電話番号が載っています。

これを読んでいて思い出したのが、以下の本。

沼野充義『モスクワ・ペテルブルク縦横記』(岩波書店、1995年)

Kamchatkaさんの本とは性格が違うでしょうけど、モスクワに出かける時、僕はこれを見て、先鋭的な文学書を置いてある本屋さんを探しました。ガイドブックとはちょっと呼びにくい本格的なエッセイ集ですが、その意味で、kamchatkaさんの本と重なって見えます。

kamchatkaさんの本は2000年~2001年のモスクワ滞在と、その後の何回にもわたる現地再訪に基づいたものです。『モスクワ・ペテルブルク縦横記』で描き出されていた90年代の混沌が次第に整序され、新たな都市の相貌が立ちあがってくるルポとしても読めます。何よりも、地下鉄の中やカフェで情報誌をむさぼり読む楽しげな著者の姿が想像できて、もう何年も行ってないけど、今のモスクワ、行ってみたくなりました。

僕が最後にモスクワを訪れたのは2000年の暮れです。ライヴハウスのドムや複合施設プロジェクトOGIといった場所に行きました。OGIでは書籍部で数冊本を買ったのですが、僕が風呂敷を取り出すと、若い店員のあんちゃんが「フロシキ!」と声を上げたのを憶えています。先鋭的な文化施設に勤める若者の間には、日本語学習の機運があるのかな、なんて思いました。

あのときOGIでは、ダンスフロアをのぞいてまたびっくり。なんとJ.J.ケールに合わせて踊っています。モスクワの真ん中で、サザン・ロックで踊る若者を見るとは思いませんでした。今はあの空間で、どんな音楽が鳴り響いているんでしょうかね。

追記 肝心のkamuchatkaさんのリンクを張るのを忘れました。

http://kazuhisaiwamoto.blog.ocn.ne.jp/kamchatka/

何日かにわたって自著への思いを語っています。