俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

甲斐バンド「安奈」

外国語教師ってのも変な商売で、毎年この時期は、「これはニーナです」「彼女はロシア人です」なんていう単純きわまりない文型をどうやって若い人に憶えてもらうか、そのことだけで頭が一杯になってしまいます。そんなの簡単じゃん、という人は一度教壇に立ってみてくださいよ。若い人もいろいろで、のみこみの速い人ばっかりじゃないですからね。ましてや、なんでこんな科目をとらなきゃならないんだ、という殺気が立ち込めるクラスでは、例文を暗記させるどころじゃありません。ニーナなんて知り合いはいないよ!なんて顔して座っている子もいるし。

「ニーナ」とともに頻出する固有名詞は「アンナ」。日本の若い人にもこの名前の子がいて、別に気にもしていなかったですが、よく考えると、ロシア人の名前かあ。で、日本の女の子に「あんな」という子がいるのは、ひょっとしてこの曲の影響なのかなあ。

甲斐バンド「安奈」

故・宮川泰も絶賛した佳曲です。

甲斐よしひろさんの作る曲には独特の血の暗さみたいなものがあって、そういう側面で甲斐バンドの魅力を語りだすと切りがなくなります。「裏切りの街角」でNHK「レッツゴー・ヤング」に出演したときの、何というか、うらぶれた三流GSっぽさ(これ、ほめ言葉です)、もう鮮烈に憶えてます。他に「かりそめのスイング」「きんぽうげ」「ポップコーンをほおばって」「ダニーボーイに耳をふさいで」「翼あるもの」「バス通り」等々、忘れられない濃い楽曲のかずかず。

「安奈」ではその情念の濃さがほどよいぐあいに薄まって、メジャーコードでミディアムテンポの、聴きやすいポップ曲になっています。寒い土地で寂しい暮らしを送る青年が、遠く離れた恋人、その名も「安奈」へむけて、恋しさ、懐かしさを切々とうったえる曲。携帯電話もメールもなく、遠距離恋愛、なんていうお手軽な言葉もなかった時代、「安奈、クリスマスキャンドルの灯は 揺れているか/安奈、お前の愛の灯はまだ 燃えているかい」という歌詞は、今とは比べ物にならない重さを持っていたと思います。

そんなことを書いているうちに、ユジノサハリンスクのナターリアを思い出したりして。もう何年前だろう、仕事で知り合ったんですよね。3年前訪ねていったら、年下の小太りの旦那さんと一緒に迎えてくれました。ふたりは僕をCDショップに案内してくれて、ゼムフィーラ(ロシアの椎名林檎:ちょっと語弊があるかな)のニュー・アルバムを買ってくれました。旦那に「君はルースキー・シャンソン(ロシアのシャンソン)は聴くのか」とたずねたら「アハハ、聴きませんよ」と言われてしまいました。そうか、ド演歌、聴かないんだね君たち。

まあいいや、陽気そうな旦那さんでよかったね。幸せに暮らすんだよ、ナターリア。