俺にはブルーズを歌う権利なんかない

どこにも所属を持たず仕事/勉強/読書を続けています。2008年、音楽についてメモ代わりに書くためにこのブログを始めました。

巨匠、現代ロシア文学に言及する

筒井 今島田さんがおっしゃったのは、何のために書くかという話ですが、それに関して『トラウマの果ての声』(群像社)に面白いことが書いてある。この本は現代ロシア文学と、それから全体の現状を解説しているんです。これを読むとロシア文学の二つの方向が見えるんです。一つの方向として、日本よりずっと前衛的なものがある。とにかく老若男女、人畜、有機物、無機物の区別がないゴチャゴチャの世界になっているんです。それを読んで僕は、アニメ的リアリズムだなと思った。昔のディズニーみたいなものを指すアニメ的リアリズム。そして、もう一つが何かと言うと、それはソ連時代へのノスタルジーなんですよ。あの頃を懐かしんで書いてるわけ。

島田 それは現代のロシア文学ですね。

筒井 そう、現代でもそうなんだよ。昔社会主義リアリズムというのがありましたね。作家は人民を啓蒙するために書く。それがまだ残っているんです。今のロシアの作家はそれがなくなってしまって困っているんですよ。自分たちが民衆のために一体何を書いたらいいかわからなくなってる。だからわれわれにしても、そういう作家としての使命感はとにかく持っておかなきゃだめだ、ということを僕はつくづく感じています。

文学界』2008年4月号、十一人大座談会「ニッポンの小説はどこへ行くのか」より引用しました。「筒井」は筒井康隆氏、「島田」は島田雅彦氏。『トラウマの果ての声』は岩本和久さん著、群像社、2007年。巨匠でも「僕」という一人称を使うんですね。